日本語教育シンポジウム「ひらく・つなぐ・つくる 日本語教育の現場」国際交流基金関西国際センター

国際交流基金関西国際センター

報告レポート

分科会2「専門領域と つなぐ」

概要

分科会2は、参加者44名のうちほぼ全員が日本語教育経験者であり、前半の事例報告でも後半のディスカッションでも、実体験に基づく意見や質問が積極的に出されました。

前半は、介護、司書、ビジネスの分野から、日本語教師が専門領域に踏み込み、時には学習者に教えられ、時には戸惑いながら専門家と協力して問題を解決していったそれぞれのプロセスが報告されました。

後半は前半の報告をふまえ、専門領域とどうつなぐか、そこでの日本語教師の役割、必要とされる能力、さらに、初級からの専門日本語教育をどうすればいいのか、という点について、ディスカッションを行いました。発表者、会場の双方から、「学習者は専門領域の重要なリソース」「しかし学習者から専門家としての知恵を引き出すためには、教師も専門領域について知る必要がある」「目の前の学習者が困っている時に、日本語教師だから知りませんとはいえるのか」「海外の人材を受け入れるためには、現場の難解な日本語も変わらなければ」「漢語は学習者にとって本当にむずかしいのか」など、さまざまな発言がありました。日本語教師の役割についても、初級日本語の概念についても、また日本語教育のあり方についても、現実に即して変わっていかなければならないという意識が日本語教師の間に醸成されていることを感じました。

参加者からは、「同じような現場を抱えるものとして、興味深く感じた」「具体的な現場の話が聞けておもしろかった」「もっと時間がほしかった」などの声が聞かれました。

事例報告

「教材作成のプロセスを語る」~介護者のための日本語~ 武田(栃木)亜寿香(ミンダナオ国際大学日本語教育アドバイザー)野村愛(アセンド教育財団日本語教育プログラムコーター)

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「コース・デザインのプロセスを語る」~司書のための日本語~ 亀井元子(関西国際センター日本語教育専門員)浜口美由紀(関西国際センター専任司書)

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「評価作成のプロセスを語る」品田潤子(国際日本語普及協会所属日本語教師)

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全体の質疑応答

会場:フィリピンと日本の介護についての理念の違いについて、具体的におしえてほしい。

野村:例えば、ごはんを食べない人に対してどうするかという場面で、フィリピン人学習者から「ごはんを食べないならテレビを見させない」というような答が返ってくる。実際に病院でもペナルティを与えることがあると聞く。また、身体介助は家族や親戚がするもので介護者の仕事ではないなど、介護者の仕事の範囲も異なっている。

会場:ここで研修を受けた司書が母国に帰って、学んだことをどう生かしているのかといった追跡調査はやっているのか。

亀井:最近、この10年間の司書日本語研修の追跡調査の分析を終えたところだが、業務の効率化や日本の図書館とのネットワークが現地の図書館でも役に立っているようだ。

会場:ビジネス日本語は、工場労働者なども対象と考えるのか。

品田:大きくは、ビジネス日本語とは商業領域の日本語ととらえている。ただ言語依存性の高低から考えると、工場労働の現場では場イズムというか場面依存性が高い。きょう話題にしたのは、言語依存性の高い分野。ただし今後初級レベルの能力記述をする際には工場労働も対象として入ってくると思う。

会場:浜松の工場でデータ収集した時に、現場依存度の高い所では、日本語を必要としない、少なくとも伝えるための日本語は必要ない。わかればいい、という現場もあった。また、一方で、それは日本語能力の問題なのか、と思うこともある。例えばプレゼンにしても、日本人のプレゼン能力も完璧ではない。「○○ができる」というのは、ビジネス日本語能力なのか、ビジネス能力ではないのかという疑問もわく。

品田:プレゼンなどでは、英語のコミュニケーションを参考にしているところがあるが、その中でも日本語的な運び方というものを明らかにしたい。

ディスカッション

Q:専門領域とつなぐ時に、どのようなリソースが考えられるだろうか。また、リソースとのコミュニケーションには、どのような工夫が必要だろうか。

野村:『介護の日本語』を使って教えていた時、突っ込んだ質問をされると教師が答えられないことも多かったが、教師が困っていると、学習者がいろいろな情報をくれて助けてくれた。教材を作る時は、介護の勉強をしたりしたが、実際に使う時には、「学ぼう、教えよう」という中で学習者がリソースとなってくれる。

品田:ビジネス行動を分析するために、ビジネス経験のある日本語教師をリソースとして話を聞いたが、漠然と聞いていたのでは欲しい情報が得られない。こういう時、どんな手順で、何をするか、その時にどう言うのか、場面を絞り込んで聞くことで、自分の経験を思い出してくれた。Can do statementsを通じてコミュニケーションできることがわかった。

亀井:専門日本語の教材を作るとき、10伝えるためには20ぐらいわかっていないと教材は作れない。それで司書にいろいろ質問をしたのだが、最初はなぜそういう質問をするのかがわかってもらえなかった。ただ、同じ学習者を見て、情報を共有していく中で、だんだん理解してもらえるようになった。

浜口:私たちは、専門用語はわかっているけれど、うまく伝える手段がない。日本語の先生は、専門用語や知識を分析して、わかりやすく視覚的に見せていく。それを見ていて、理解できるように説明するのはこういうことかと思った。海外の司書のために作った教材が、結果的に日本人の司書や日本人の利用者にとってもわかりやすいものになっている。

会場:フィリピンの工業団地で製造業従事者のための日本語コースに携わったが、製造業といっても部署によって使っている言葉は違う。共通に必要な言葉は何なのかは、学習者から聞いた。また、学習者が仕事についてプレゼンをすることで、その内容が他の学習者にも参考になり、教師としても勉強になった。

Q:日本語教師の役割、必要な能力や態度について。

野村:介護の日本語を教える中で、どこまでが日本語教師の役割なのか、迷うことがあった。そこまでやるのか、という声もあった。チームで教えていると、教師によって考え方は違う。

亀井:目の前の学習者がつまづいているのに気づいたら、ほっておけないという感覚で、少しづつ専門領域に入って行った。また専門に関するレポートを見る際にも、こちらも踏み込まなければ、ねじれた文を修正できない。

品田:相手はプロなので、専門領域については教えてもらうが、教わる準備の程度の知識は身につけておく。「なかなかやるじゃないか」と思わせるための知識は必要。

会場:介護の場合、何に困っているかというと、患者との関係ではなく、同僚とコミュニケーションできないことが壁になっている。その時、私は専門領域と学習者の間に立つのではなく、ぴったりと学習者の横につく。学習者が困っている時に日本語教師だから手を引きますとはいえないはず。外からどんどん人が入ってきているのに、日本語教師がじっとしているわけにはいかない。

会場:ビジネス日本語も、今大きな問題になっているのは、就職活動のための日本語力。社会はどんどん変わってきている。大切なのは、日本語と専門分野の人たちをコーディネートすること。そして、専門用語を教えるというよりは、ともに学ぶ、教える態度。日本語教育自体が、そのありようを、方法を改善していかないといけない。

Q:学習者が日本語初級段階で現場へ出て行くケースも少なくない。初級からの専門日本語教育は、どうあるべきか。

会場:少し見方を変えて、日本語の方を簡単にする手もある。国研で「病院の言葉をわかりやすくするプロジェクト」というのがあるが、用語がわかりやすくなると、日本人の生活もよくなる。例えば、ガン告知を「悪性腫瘍です」ということで、わかりにくくしている実態がある。多文化共生の時代を考える時に、専門領域側が歩み寄ることもできる。

会場:高校で福祉を教えるために、施設見学をさせてもらったとき、ひきつぎミーティングで「?さん、良眠されました。?さん、全食です。」というのを聞いてびっくりした。知らない言葉が聞こえてくるのが、どれだけ不安か、外国の方の気持ちがわかった。

会場:ただ、「良く眠れました」というのと、「良眠です」というのと、学習者にとってどちらがむずかしいだろうか。漢語はむずかしいと私たちは思いがちだが、漢語の方が単純な文型にはまりやすいということもある。学習者にとっての難易度を考えることも、初級からの専門日本語教育の一つの方法なのでは。

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